生成AIの自動最適化が広がり、広告運用の作業量は減っています。しかし「工数が減った」ことと「内製化できる」ことは別の話です。戦略設計・クリエイティブ方針・予算配分の最終判断は、AIに任せた後も人に残ります。
内製化と代行のどちらが正しいという単純な答えはありません。WEBMARKS自身、広告運用代行(toB支援)と内製化支援(WEBMARKS Plus)の両方を提供しています。その立場から、判断基準を工数・専門性・機会損失の3軸で整理します。
想定する読者は、事業会社でWeb広告の運用体制を検討しているマーケティング担当者・インハウス運用者です。すでに代行契約中の方が内製化を検討する場合にも、逆の場合にも使える判断軸を提示します。
検証環境:株式会社ニュートラルワークス調査・求人ボックス給料ナビ・Web幹事・矢野経済研究所・WEBMARKS公式サイト 各社公式情報 / 2026-08-08確認
この記事で分かることは次の3点です。
- 広告運用の内製化が難しいと言われる理由を、採用市場の数字で確認する
- 代行に出す場合の手数料相場と、AI活用が力関係をどう変えたか
- 内製化と代行を、自社の状況に当てはめて判断する3つの軸
01結論|内製化と代行、広告運用の判断基準は3つの軸に集約できる
結論から言うと、広告運用の内製化と代行を分ける判断基準は、次の3軸に整理できます。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| 工数 | 自社で採用・育成する人件費と時間が、代行の手数料を上回らないか |
| 専門性 | 戦略設計・入札の異常検知・クリエイティブ方針まで社内で判断できるか |
| 機会損失 | 判断が遅れた場合に、代行に出していれば防げた損失がどれだけあるか |
3軸のどれか1つだけで決めるのではなく、自社の状況を当てはめて総合判断する必要があります。工数だけを見て内製化を選び、専門性の壁にぶつかって結局代行に戻すという遠回りは、実務でよく起こるパターンです。以下では、まず内製化の難しさと代行のコスト構造を数字で確認し、そのうえでAI活用が両者の力関係をどう変えたかを見ていきます。
02広告運用の内製化が難しい理由|専門人材の採用市場を数字で見る
内製化の最大の壁は、採用です。株式会社ニュートラルワークスが2023年2月14日〜15日に調査を実施しました。対象は194名で、デジタルマーケティング人材の採用を行う経営者・役員です。この調査によると、53.6%が採用に苦労していると回答しています(出典: ニュートラルワークス調査)。
苦労している理由は「高度なスキルを持った人材の不足」が51.9%で最多、「採用予算の不足」が39.4%で続きます(出典: ニュートラルワークス調査・同上)。採用できたとしても、給与水準の把握が必要です。求人ボックス給料ナビによると、運用型広告の仕事の平均年収は597万円です(出典: 求人ボックス給料ナビ)。
同ページによると、2025年5月〜2026年6月の求人数は平均23,925件、2026-08-08確認時点の総求人数は24,430件です(出典: 求人ボックス給料ナビ)。求人数の多さは、採用競争が激しいことの裏返しでもあります。内製化には、年収597万円クラスの人材を採用し、育成する時間も見込む必要があります。
さらに、採用したあとの離職リスクも内製化特有のコストです。運用担当者が1人しかいない体制では、退職と同時にノウハウごと失う可能性があります。代行の場合は、担当者の異動があっても契約先の組織にノウハウが残ります。この違いは、採用市場の数字だけでは見えない部分です。
一方で、代行を切り替える場合も、それまでの運用ノウハウや過去の入札データが自社に残らないという逆方向のリスクがあります。乗り換えのたびに、新しい代理店との関係構築と情報共有をゼロからやり直す必要があるためです。内製化は、この引き継ぎコストを避け、ノウハウを自社の資産として蓄積できる点が中長期的な強みになります。
03広告運用を代行に出す場合のコスト構造|手数料相場とWEBMARKSの料金モデル
代行に出す場合、業界で最も一般的なのは広告費の20%を運用手数料とする料率型です(出典: Web幹事)。広告費100万円なら手数料20万円で、月額合計は約120万円になります(出典: Web幹事・同上)。この料率型は、広告費が増えるほど手数料も比例して増える仕組みなので、予算規模が大きいほど内製化との比較検討が必要になります。
多くの代理店では最低手数料が設定されており、広告費5万円の場合でも手数料5万円が発生する例があります(出典: Web幹事)。広告費が少額なほど、実質的な手数料率は上がる点に注意が必要です。
WEBMARKS自身の広告運用代行も、月額広告費用30万円未満は一律5万円、30万円以上は広告費用の20%という料金モデルです(出典: WEBMARKS公式FAQ)。業界の一般的な料率型とほぼ同じ水準で、代行に出すこと自体が特別に割安・割高というわけではありません。
| 料金モデル | 手数料の目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 業界一般(料率型) | 広告費の20%(最低手数料5万円が一般的) | Web幹事 |
| WEBMARKS | 30万円未満は5万円/30万円以上は20% | WEBMARKS公式FAQ |
代行の手数料を比較するときは、運用手数料以外のコストも確認してください。Web幹事の記事は、バナー・動画などクリエイティブ制作費が別料金になるケースが多いと説明しています(出典: Web幹事・上掲)。手数料率だけを比較すると、実際の総支払額を見誤ります。
04AI活用は内製化と代行の力関係をどう変えたか|工数は減っても判断は残る
矢野経済研究所は2026年4月30日、実態調査を発表しました。調査期間は2025年11月〜2026年2月です。同調査は、広告主のAI活用状況が三層構造に分化していると指摘しています(出典: 矢野経済研究所)。
分化の内訳は「AI先進・投資拡大型」「AI未活用・防御型」「中間層」の3層です(出典: 矢野経済研究所・同上)。同社は「AI格差が広告競争力の格差として顕在化する可能性が高い」と指摘しています。この分化は、内製化チームでも代行先の代理店でも起こります。
つまり、AI活用そのものは内製化か代行かを問わず必要です。違うのは、AI活用を主導する人材をどちらが確保しやすいかという点です。代行に出す場合も「AI先進型」の代理店を選べているかを確認する必要があり、契約すれば自動的にAI活用が進むわけではありません。広告運用の中で「AIに任せられる工程」と「人が握るべき判断」の切り分けは『AI時代の広告運用、任せる工程と人が持つ工程の地図』で詳しく扱っています。
05内製化と代行を分ける3つの軸|工数・専門性・機会損失
結論の3軸を、実務で確認する順番に沿って掘り下げます。1つ目は工数です。年収597万円クラスの担当者を1人採用しても、AI活用で運用の実作業時間は減る一方、戦略設計に割く時間は減りません(出典: 求人ボックス給料ナビ・上掲)。
2つ目は専門性です。媒体ごとのAI機能の仕様変更を追い続け、異常な入札挙動やクリエイティブの劣化を見抜くには、継続的な情報収集が要ります。1人の担当者がGoogle・Meta・LINEヤフーなど複数媒体の仕様変更を同時に追い続けるのは、実務上の負荷が大きい点にも注意してください。マーケティングAIツールそのものの選定軸は『マーケティングAIツールの選び方、5つの判断軸で整理』が詳しいので、あわせて参照してください。
3つ目は機会損失です。ニュートラルワークス調査の「スキル不足で採用に苦労する」51.9%という数字は、採用の長期化リスクを示しています(出典: ニュートラルワークス調査・上掲)。採用が長引くほど、その間の広告運用が手薄になり、機会損失が積み上がります。
| 状況 | 内製化が向く可能性 | 代行が向く可能性 |
|---|---|---|
| 広告費の規模 | 手数料が人件費を上回る規模まで拡大している | 手数料の方が人件費より安い規模 |
| 社内の専門人材 | 採用済み、または育成の時間を確保できる | 採用が難航している、育成の余力がない |
| 意思決定の速さ | 社内で完結させたい・機密情報を扱う | 複数媒体を並行して素早く試したい |
| ノウハウの蓄積先 | 自社に資産として残したい | 一時的な体制で十分 |
この表はどちらか一方を選ぶための基準ではなく、自社の現状を4つの観点で棚卸しするための表です。4項目すべてが同じ列に揃うとは限りません。広告費の規模は代行向きでも、機密情報を扱う商材のため内製化を優先する、という判断もあり得ます。
06広告運用の内製化でつまずきやすい点|「工数が減った」だけで判断しない
内製化の検討でつまずきやすいのは、次のような判断です。
- AIツールの自動化を見て「もう専門知識は不要」と判断し、異常検知の担当を置かない
- 採用コストだけを比較し、育成期間中の機会損失を見積もりに入れない
- 代行手数料と自社の採用・運用コストを金額だけで比較し、育成期間中の生産性低下や異常検知の抜け漏れといった間接コストを見積もりに入れない
- 内製化と代行を二者択一と考え、段階的に移行する選択肢を検討しない
- 代行を解約して内製化に切り替える際、引き継ぎ期間を確保せず運用が一時的に空白になる
最後の項目は特に見落とされがちです。代行の解約から社内担当者の稼働開始までに間が空くと、その期間の配信最適化が止まり、CPAが悪化することがあります。切り替えは、旧体制と新体制が並走する期間を設けて進めるのが安全です。
段階的な移行という選択肢もあります。まずeラーニング研修で基礎知識を身につけ、次に外部の伴走支援を受けながら実務を回し、最終的に自社完結の運用体制へ移行する3段階の設計です。この移行期間中は、旧体制と新体制を意図的に並走させることで、引き継ぎの空白期間を作らずに済みます。
内製化のコストを試算する際は、厚生労働省の「人材開発支援助成金」を活用できる場合があります(出典: 厚生労働省・2026-08-08確認)。同制度は、事業主が労働者に職務関連の訓練を計画に沿って実施した場合、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成する仕組みです。助成率や要件は訓練の種類・企業規模によって異なり、支給申請には審査があります。具体的な助成率は自社の状況で変わるため、契約前に管轄の労働局または同制度のページで最新の条件を確認してください。
07内製化するか代行に出すか判断するためのチェックリスト
自社の広告運用を内製化するか代行に出すか判断する前に、次の項目を確認してください。すでに代行契約中の企業が内製化へ切り替える場合も、逆に内製化から代行へ切り替える場合も、同じ項目で棚卸しできます。
- 月間の広告費と、代行手数料の目安(広告費の20%が業界の一般的な水準。出典: Web幹事)を試算したか
- 内製化する場合の採用コスト(運用型広告の平均年収597万円が目安。出典: 求人ボックス給料ナビ)を試算したか
- 採用の難易度(デジタルマーケ人材採用の53.6%が「苦労している」という調査結果。出典: ニュートラルワークス調査)を織り込んだか
- AIツールに任せられる工程と、人が判断すべき工程を切り分けたか
- 育成・採用が長引いた場合の機会損失を見積もりに入れたか
- 内製化と代行を二者択一にせず、段階的な移行という選択肢を検討したか
- 助成金など、内製化のコストを下げる制度の有無を確認したか
- 社内に蓄積すべきノウハウと、外部に任せてよい作業を切り分けたか
このチェックリストは一度だけ使うものではありません。広告費の規模やAIツールの活用状況は数ヶ月単位で変わるため、四半期に一度は同じ項目で棚卸しし、内製化と代行の配分を見直すことをおすすめします。
08FAQ
広告運用は内製化と代行、どちらが優れていますか
一律に優劣が決まる話ではありません。広告費の規模・社内の専門人材・意思決定の速さなど、自社の状況によって向き不向きが変わります。3軸(工数・専門性・機会損失)で自社に当てはめて判断してください。
広告運用代行の手数料相場はいくらですか
業界で最も一般的なのは広告費の20%です(出典: Web幹事)。多くの代理店で最低手数料が設定されており、広告費が少額なほど実質的な手数料率は上がります。
AI活用が進んだら内製化しやすくなりますか
作業量は減りますが、専門性の必要性が消えるわけではありません。矢野経済研究所の調査では、AI活用状況そのものが企業ごとに三層化しており、AI活用を主導できる人材の確保が新たな課題になっています(出典: 矢野経済研究所)。
広告運用担当者の採用は難しいですか
株式会社ニュートラルワークスの調査では、経営者・役員の53.6%が採用に苦労していると回答しています(出典: ニュートラルワークス調査)。理由の最多は「高度なスキルを持った人材の不足」です。
内製化と代行の中間のような選択肢はありますか
あります。eラーニング研修から内製化伴走支援、施策実行の伴走支援まで段階を分けて進める方法です。WEBMARKS Plusのように、助成金を活用しながら段階的に自走化を進める設計もあります(出典: WEBMARKS Plus公式サイト)。
広告費の規模が小さい場合はどちらが向きますか
広告費が小さいほど、代行の最低手数料(例:広告費5万円でも手数料5万円という例)が相対的に重くなります(出典: Web幹事)。人件費と比較したうえで、まず内製化を試すという判断もあります。