AIでリライトした広告文が、いつの間にか実際の効果より大げさな表現になっていた。生成AIで作った体験談ふうの投稿が、広告だと分かる表示のないまま公開されていた。こうした事故は、生成AIを使うかどうかに関わらず、広告表現を規制する法律が何を対象にしているかを整理できていないと起こります。
本記事では、広告表現に関わる法規制のうち景品表示法・ステルスマーケティング規制(以下ステマ規制)・薬機法の3つに絞ります。それぞれがどの表現・どの行為を対象にしているかを境界線として整理します。個別の表現が違反に当たるかどうかの最終判断は、弁護士や薬事の専門家にご確認ください。
検証環境:消費者庁公式サイト(ステマ規制・執行状況2026年度・優良誤認/有利誤認の各ページ)、厚生労働省公式通知(薬食発0721第1号)/2026-08-07確認
01結論:広告表現の法規制、まず知っておきたい3つの境界
- 景品表示法:表示内容が事実と違わないかを規制します(優良誤認・有利誤認)
- ステマ規制:表示が広告だと消費者に分かるかを規制します(景品表示法の一類型)
- 薬機法:化粧品・医薬品的な効能効果の表現範囲を規制します(対象は特定の商品カテゴリ)
3つの法律は規制する対象がそれぞれ異なるため、1つを確認しただけで安全だと判断しないでください。所管官庁も消費者庁と厚生労働省の2つに分かれます。
02広告表現を制限する3つの法律、まず境界を知る
広告表現に関わる法規制は数多くありますが、実務でまず押さえておきたいのは景品表示法・ステマ規制・薬機法の3つです。所管官庁・規制対象・主な措置を整理すると、次のようになります。
| 法律 | 所管官庁 | 規制する対象 | 措置の例 |
|---|---|---|---|
| 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法) | 消費者庁 | 商品・サービスの内容や取引条件についての不当な表示(優良誤認・有利誤認) | 措置命令・課徴金納付命令 |
| ステマ規制(景品表示法の告示) | 消費者庁 | 広告であることを一般消費者が判別できない表示 | 景品表示法上の措置命令 |
| 薬機法 | 厚生労働省 | 医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器等の広告表現(効能効果の範囲など) | 行政指導・是正命令等(個別に確認が必要) |
景品表示法とステマ規制はいずれも消費者庁の所管で、表示の中身よりも「消費者が正しく選べる状態か」を問う法律です(出典: 消費者庁)。薬機法は厚生労働省の所管で、対象商品カテゴリを医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器等に絞り込む代わりに、表現できる効能効果の範囲を細かく定める法律です(出典: 厚生労働省)。
自社の広告表現がどの法律の対象になり得るかを判断する手順は、次の2ステップです。
- 表示している内容が「事実と違っていないか」を確認する(違えば景品表示法・薬機法の対象になり得ます)
- 表示そのものが「広告だと分かる状態か」を確認する(分からなければステマ規制の対象になり得ます)
03景品表示法が規制する広告表現、優良誤認と有利誤認の境界
景品表示法(正式名称:不当景品類及び不当表示防止法)は、商品・サービスの品質や取引条件について事実と異なる表示を規制する法律です。規制の中心は第5条が定める2種類の表示です。
優良誤認(第5条第1号)は「実際のものよりも著しく優良であると示すもの」を指します。事業者が根拠資料を期間内に提出できない場合は、違反表示とみなす、または推定する規定もあります(出典: 消費者庁)。有利誤認(第5条第2号)は「実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの」を指します(出典: 消費者庁)。
重要なのは、有利誤認が「故意の場合だけでなく、誤って表示した場合でも」規制対象になる点です(出典: 消費者庁)。AIが自動生成・自動リライトした広告文が結果的に誇大な表現になった場合も、故意でなくても違反になり得るという理解が実務では必要です。
消費者庁は2026年度の措置命令等の公表状況を随時更新しており、8月6日時点で確認できたのは7件でした。内訳は表示関連が4件、取引関連が3件です(出典: 消費者庁)。表示関連には「SNOW」アプリ利用サービス提供事業者2社への措置命令なども含まれます(出典: 同上)。
ただし、この一覧ページの記載だけでは、各事案が優良誤認・有利誤認・ステマ規制のどの類型に基づくかまでは判別できません。個別の違反類型を特定したい場合は、消費者庁が公表する個別の発表資料まで確認する必要があります。
04ステマ規制が広告表現に加えた境界、2023年10月1日施行
ステマ規制は、景品表示法が禁止する不当表示の一類型として、令和5年(2023年)10月1日に施行されました(出典: 消費者庁)。2024年ではなく2023年施行である点に注意してください。企画段階の資料で2024年10月1日と誤記されていたことがあり、本誌でも一次情報での再確認を徹底しています。
規制対象は、広告であるにもかかわらず、広告であることを一般消費者が判別できない表示です(出典: 消費者庁)。企業がインフルエンサーなど第三者に依頼・指示して行わせる場合も対象に含まれます(出典: 同上)。
自社の投稿だけでなく、依頼した第三者の投稿にも同じ確認が必要です。確認の手順は次の2ステップです。
- 投稿に「広告」「PR」等、広告だと分かる表示があるか確認する
- 表示が無い場合、文脈全体から一般消費者が広告だと判別できる状態かを確認する
05薬機法が規制する広告表現、化粧品の効能効果表現の限定列挙
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器等の広告表現を規制する法律です。所管は厚生労働省です。
化粧品の効能効果として表示してよい範囲は、厚生労働省の通知(薬食発0721第1号、2011年7月21日付)で56項目に限定列挙されています(出典: 厚生労働省)。この通知は、2000年(平成12年)の通知で定められた55項目に「乾燥による小ジワを目立たなくする」という1項目を追加改正したものです(出典: 同上)。56項目に含まれない効果を広告表現で謳うことは、薬機法上の問題になり得ます。
広告全般の適正基準としては、別途「医薬品等適正広告基準」(薬生発0929第4号、2017年9月29日付)が定められています(出典: 厚生労働省)。目的は、広告が虚偽・誇大にわたらないようにし、その適正を図ることです。この通知の逐条の内容は、原本PDFでの直接確認、または薬事の専門家への確認を推奨します。条文番号を根拠に個別の表現を判断する場合は、必ず原本で実在を確認してください。
化粧品広告でよくある失敗は、56項目の枠外にある「シミが消える」「毛穴が閉じる」といった表現を、AIによるコピー生成の過程でそのまま採用してしまうケースです。効能効果の限定列挙は加工の有無を問わず適用されるため、AIが生成した文章だからという理由で基準が緩むことはありません。
06AI生成・AI加工の表現を、広告表現の法規制はどう扱うか
生成AIが作った文章・画像を広告に使う場合も、既存の3つの法規制がそのまま適用されます。消費者庁が公開するガイドライン一覧を確認した範囲では、生成AI・AIリライトに特化した公式ガイドラインは存在しません(出典: 消費者庁)。したがって、AIが作った表現も、優良誤認・有利誤認・ステマ規制という既存の枠組みに当てはめて判断することになります。
AIで加工した肌の変化のビフォーアフター画像も、化粧品の効能効果表現としては同じ56項目の範囲内かどうかが基準になります(出典: 厚生労働省)。加工の有無にかかわらず、56項目を超える効果を示す表現は薬機法上の問題になり得ます。
広告プラットフォーム各社も、AI生成コンテンツの開示を独自に求め始めています。Metaは2025年2月3日、生成AIツールで作成・大幅編集した広告に「AI info」ラベルを表示すると発表しました(出典: Meta)。業界標準のシグナルでサードパーティ製AIツールの使用が自動検出された広告も、同じラベルの対象です(出典: 同上)。
フォトリアルなAI生成人物を含む場合、このラベルは「スポンサー」表示の隣に直接表示されます(出典: Meta)。サードパーティ製AI検出によるラベル表示は、2026年6月1日の更新で追加されました(出典: 同上)。
本誌が一次情報を確認できたのは、この記事の執筆時点でMetaの事例に限られます。Google・TikTok・LINEヤフー等、他のプラットフォームも独自のAI開示ポリシーを持つ可能性がありますが、確認できていない内容は断定しません。掲載前に、利用するプラットフォームごとのポリシーを個別に確認してください。
AI生成・AI加工の広告表現を公開する前に確認する手順は、次の3つです。
- 表現の内容が、実際の効果・条件と一致しているか(景品表示法の優良誤認・有利誤認の対象範囲)
- 表示がAIによる生成・加工だと、一般消費者が広告だと判別できる状態か(ステマ規制の対象範囲)
- 化粧品・医薬品的な効能効果を示す場合、56項目などの限定列挙の範囲内か(薬機法の対象範囲)
073つの法規制と広告表現の境界を1枚で見分ける
ここまで見た3つの法規制の関係を整理すると、次のようになります。
- ステマ規制は独立した法律ではなく、景品表示法が禁止する不当表示の一類型です(出典: 消費者庁)
- 景品表示法は「表示の中身が事実と違うか」(優良誤認・有利誤認)を規制し、ステマ規制は「表示が広告だと分かるか」を規制します
- 薬機法は対象を医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器等に絞る代わりに、効能効果の表現範囲を56項目という形で細かく規定します(出典: 厚生労働省)
- 化粧品の広告表現は、景品表示法(優良誤認・有利誤認)と薬機法(効能効果の限定列挙)の両方を同時に確認する必要があります
2023年10月1日施行のステマ規制も含め、3つの法規制はいずれも、個別の表現が違反に当たるかどうかを機械的に判定できる基準ではありません。最終的な該当性の判断は、弁護士や薬事の専門家に確認することを前提としてください。
08広告表現の法規制でつまずきやすい点
実務でよく見かける誤解を整理すると、次の5パターンです。
| よくある誤解 | 正しい理解 |
|---|---|
| ステマ規制さえ守れば景品表示法は関係ない | ステマ規制は景品表示法の一類型であり、優良誤認・有利誤認の規制は別途かかる |
| AIが自動生成した表現なら人の故意がないので規制対象外 | 有利誤認は誤って表示した場合でも規制対象になり得る(過失規制) |
| 化粧品の効能効果は謳ったもの勝ちで、事後に取り下げれば良い | 効能効果表現は56項目に限定列挙されており、範囲外の表現は薬機法上の問題になり得る |
| 生成AIのAI表示ラベルは、どのプラットフォームも共通仕様である | AI情報ラベルの表示条件・表示位置はプラットフォームごとに個別に定められている |
| 消費者庁の措置命令一覧に載った事案は、すべてステマ規制違反である | 一覧ページだけでは規制類型(優良誤認・有利誤認・ステマ規制のいずれか)は判別できない |
5つの誤解に共通するのは、1つの法律だけを確認して安心してしまう点です。判断に迷ったら、規制対象が異なる別の法律にも触れていないかを確認する習慣をつけてください。
09広告表現の法規制チェックリスト
- 表示内容が、実際の商品・サービスの効果や条件と一致しているか確認した(優良誤認・有利誤認)
- 表示が広告だと、一般消費者が判別できる状態になっているか確認した(ステマ規制)
- インフルエンサー等の第三者に依頼した投稿にも、広告だと分かる表示があるか確認した
- 化粧品・医薬品的な効能効果を謳う場合、限定列挙された表現の範囲内か確認した(薬機法)
- AIが生成・リライト・加工した表現も、上記と同じ基準で確認した
- 利用する広告プラットフォームのAI生成コンテンツ開示ポリシーを確認した
- 個別の該当性について、弁護士や薬事の専門家に確認できる体制がある
- 未確認の効果・実績を、断定的な表現で書いていないか確認した
10FAQ
広告表現の法規制は、どの法律を確認すればよいですか
主に景品表示法・ステマ規制・薬機法の3つです。ただし対象商品・サービスによっては、他の法令が関わる場合もあるため個別に確認してください。
ステマ規制はいつから施行されましたか
令和5年(2023年)10月1日です(出典: 消費者庁)。2024年ではない点に注意してください。
化粧品の効能効果として書ける表現は何項目ありますか
厚生労働省の通知(薬食発0721第1号)で56項目に限定列挙されています(出典: 厚生労働省)。
AIが自動生成した広告表現でも、法律違反になりますか
有利誤認は誤って表示した場合でも規制対象になり得るため、故意でなくても違反になり得ます(出典: 消費者庁)。広告表現をAIに任せる場合も、公開前の確認体制が必要です。
生成AIに特化した広告表現の法規制ガイドラインはありますか
消費者庁が公開する範囲では、生成AIに特化した公式ガイドラインは存在しません(出典: 消費者庁)。既存の優良誤認・有利誤認・ステマ規制の枠組みに当てはめて判断することになります。
措置命令が出た事案は、必ずステマ規制違反ですか
いいえ。消費者庁の公表一覧だけでは、優良誤認・有利誤認・ステマ規制のどの類型に基づくかは判別できません(出典: 消費者庁)。個別事案の類型は、公表資料本文で確認する必要があります。