「この広告文、AIで整えておいて」。そう頼まれて戻ってきた原稿を、読んでそのまま入稿していないでしょうか。生成AIの言い換えは速く、日本語もなめらかです。読み手には親切な文章に見えます。
ただ、化粧品の広告では、そのなめらかさが落とし穴になります。書いてある話題は同じなのに、効果の言い方だけが一段強くなる。この「一段」が、法律の側から見ると別世界に入っています。
本誌は、この失敗が実際に自社で起きた記録を持っていません(自社実例の実測台帳.md確認)。以下は事故の報告ではなく、化粧品の効能効果表現を定めた厚生労働省の通知と、景品表示法の一般原則から論理的に導いた「起こり得る形」です。扱うのは化粧品の効能効果表現だけで、医薬品・医薬部外品・医療機器などは根拠となる通知も許容範囲も違うため触れません。厚生労働省・消費者庁の公式サイトは2026-08-07に確認しています。
こんなふうに調べていませんか
- 「AIリライト 薬機法 抵触」で検索して、どこからが危ないのかを探している
- AIで整えた広告文を、そのまま入稿してよいか判断できずに止まっている
この記事を読み終えたときに手に入るもの
- 化粧品の効能効果が56項目に限定列挙されている理由を、社内で説明できるようになります
- AIリライトが枠を越える3つの型を、原稿を見て指させるようになります
- 公開前に止める確認の順番を、担当者が変わっても回る形にできます
結論30秒でわかる、この記事の結論
- AIリライトが薬機法に抵触するのは、話題が変わったときではありません。効能効果の「程度」「種類」「範囲」が静かに動いたときです。
- 化粧品の効能効果は56項目に限定列挙されています。リストに無い効果は、言い方を工夫しても外側のままです。
- 止め方は作業を増やすことではなく、順番を固定することです。一文ずつ項目番号を当て、当たらない文を出さない。ここが要になります。
この記事では、若葉さん(用語からつまずく側)、高梨課長(体制と工数を気にする側)、鈴木さん(答える側)の会話をところどころに挟みます。読者が実際に社内で交わす会話に近い形で置いています。
01生成AIリライトが薬機法に抵触するのは、どんなときですか?
若葉さんリライト前もリライト後も、同じ商品の同じ話をしているんです。それでも問題になるんでしょうか。
鈴木さんなります。法律が見ているのは「何の話をしているか」ではなく、「どんな効果を、どこまで言ったか」なんです。
結論から言います。抵触は、話題が入れ替わったときではなく、効果の程度・種類・範囲のどれかが動いたときに起きます。この3つが動いても、文章としてはまったく不自然に見えません。だから読み流すと通過します。
化粧品の効能効果として表示してよい範囲は、厚生労働省の通知(薬食発0721第1号、2011年7月21日付)で56項目に限定列挙されています(出典: 厚生労働省)。限定列挙とは「ここに書いてあるものだけ」という書き方です。似ているから許される、という余地がありません。
つまり判断の軸は「良い表現か/悪い表現か」ではありません。リストの内側か、外側かという二択です。この軸に切り替えるだけで、確認作業の迷いはかなり減ります。
この章のまとめ
抵触は話題の入れ替わりではなく、程度・種類・範囲の移動で起きる。判断は良し悪しではなく、リストの内外で見る。
02化粧品の効能効果56項目は、薬機法上どこまでWeb広告で書けるんですか?
56項目は、思っているよりずっと控えめな言い回しで並んでいます。たとえば「乾燥による小ジワを目立たなくする」。ここで止まっている、という点が大事です。
このリストは一度で完成したものではありません。2000年(平成12年)の通知で定められた55項目に、「乾燥による小ジワを目立たなくする」を加えたのが、いまの56項目です(出典: 厚生労働省)。逆に言えば、1つ増やすのに行政の改正が要るということでもあります。
56項目に含まれない効果を広告で示すことは、加工の有無を問わず薬機法上の問題になり得ます(出典: 同上)。手を加えたのが人でもAIでも、扱いは変わりません。
高梨課長「リストに無い」と言われても、現場は表現を工夫したいわけですよ。
鈴木さん工夫の余地は、リストの内側にあります。外側の効果を上手に言い換える方向へ工夫すると、そのままリスクになります。
この章のまとめ
56項目は限定列挙。増減には行政の改正が要る。工夫はリストの内側で行う。
03生成AIリライトはなぜ、薬機法の枠を越えやすいんですか?
理由は、AIリライトという技術が何のために作られているかにあります。言い換えの目的は、意味を保ちながら、より自然で説得力のある文章にすることです。説得力を上げる方向に力がかかる以上、表現の強度は上がりやすくなります。
一方、化粧品の効能効果は閉じたリストで決まっています。「強くする方向に最適化された技術」と「一字一句で線が引かれた制度」が、真正面からぶつかっているわけです。相性が悪いのは、担当者の注意力の問題ではありません。
この章のまとめ
AIリライトは説得力を上げる方向に働き、制度は一字一句で線を引く。構造そのものが噛み合っていない。
04AIリライトで「程度」が強まるのは、広告運用のどの場面ですか?
もっとも多いのは、原稿の推敲を任せたときです。「もう少し訴求を強く」「読者に響く言い方に」という依頼は、程度を動かしてほしいという依頼と、AIから見れば区別がつきません。
次の表は、実在する56項目の表現と、AIリライトが差し出しやすい言い換えを並べたものです。右側は本誌が検出した事例ではなく、法令の構造から導いた仮想の例です。
| 56項目にある表現(厚生労働省の原文) | AIリライトが差し出しやすい言い換え(仮想例) | 動いたもの |
|---|---|---|
| 乾燥による小ジワを目立たなくする(56番目の項目) | シワが消える/シワが解消される | 程度が上がった |
| 頭皮、毛髪を清浄にする(1番目の項目) | 頭皮トラブルを治す | 種類が変わった(治療の示唆) |
| 香りにより毛髪、頭皮の不快臭を抑える(2番目の項目) | ニオイの原因菌を撃退する | 範囲が広がった(殺菌の示唆) |
表の右列に注目してください。動いたものは毎回ちがいます。「消える」は程度、「治す」は種類、「原因菌を撃退」は範囲です。3つの型として覚えておくと、原稿の上で指させるようになります。
この章のまとめ
危ないのは推敲を任せた場面。動くものは程度・種類・範囲の3つで、型として覚えると原稿上で指せる。
05「AIリライトだから故意ではない」は、Web広告で通用しますか?
ここから、現場で出やすい2つの言い分を見ます。1つ目は「AIが自動で書いたのだから、誇大に見せる意図は無かった」というものです。
この言い分は、景品表示法の考え方と噛み合いません。効能効果のような品質・内容の誇張は優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)にあたり、消費者庁は、故意でなくても誤って表示すれば規制の対象になると明記しています(出典: 消費者庁)。誰が書いたかは、適用の入口を変えません。
ちなみに、価格や取引条件の誤認を扱う有利誤認表示(同法第5条第2号)は、効能効果そのものの表現には通常あてはまりません(出典: 消費者庁)。2つの誤認を混ぜて考えると、見るべき論点がぼやけます。
この章のまとめ
故意かどうかは入口を変えない。効能効果の誇張は優良誤認の側で見る。有利誤認と混ぜない。
06元の広告文と意味が同じなら、生成AIリライトは薬機法上も安全ですか?
2つ目の言い分がこれです。「元の文章は問題なかった。同じ意味に言い換えただけだから安全だ」。
前の章の表が示したとおり、AIリライトは対象を保ったまま程度を動かします。同じ話題を指しているように見えても、規制が見るのは表現の程度と種類であって、話題の同一性ではありません。「意味は同じ」という判断そのものが、限定列挙という制度の性質を見落としています。
若葉さん私、ずっと「言いたいことが同じかどうか」で見ていました。
鈴木さん多くの方がそこから入ります。見る問いを「対応する項目番号を指せるか」に変えると、判断が主観から離れます。
この章のまとめ
「意味が同じ」は安全の根拠にならない。問いを項目番号の特定に置き換えると、判断が主観から離れる。
07生成AIリライトが薬機法に抵触する真因は、どこにあるんですか?
真因は担当者の不注意ではありません。技術の性質と制度の性質が、根本から噛み合っていない点にあります。
AIリライトは自然で説得力のある言い換えを作るように設計されています。化粧品の効能効果は、リスト外の表現を理由を問わず対象外とする制度です(出典: 厚生労働省)。この2つが重なると、「同じことを言っている」と話題レベルで確認しただけの文が、実は線の外に出ている、という見落としが構造的に発生します。
なお、化粧品の効能効果に関する虚偽・誇大な表示は、薬機法第66条が禁じる「虚偽又は誇大な記事」の広告・記述・流布に該当し得ます(出典: e-Gov法令検索)。56項目という限定列挙は、この禁止規定を化粧品の効能効果について具体化した行政通知という位置づけです。
同法第66条第1項に違反する誇大広告には、課徴金納付命令の規定もあります(同法第75条の5の2)。課徴金の額は対象期間中の対価合計額に4.5%を乗じた額で、算定額が225万円未満の場合は納付命令の対象になりません(出典: 同上)。
高梨課長金額の話が出ると、社内の温度が一気に変わりますね。
鈴木さんそこが目的ではありませんが、確認工程に人を割く根拠にはなります。作業の重みを説明する材料として使ってください。
この章のまとめ
真因は不注意ではなく構造。話題レベルの確認では線の外を検出できない。
08生成AI向けの公式ガイドラインは、広告運用の現場に用意されているんですか?
もう一つの真因は、確認の基準そのものが用意されていないことです。
消費者庁が公開するガイドライン一覧を確認した範囲では、生成AI・AIリライトに特化した公式ガイドラインは見当たりませんでした(出典: 消費者庁)。つまり「AIが書いた文章はこう確認する」という専用の手順は公式には無く、既存の優良誤認・有利誤認・薬機法の原則に、その都度あてはめて判断することになります。
ここを取り違えると、危ない方向へ進みます。専用の基準が無いことは、確認を省いてよい理由にはなりません。むしろ自社で手順を決めておかないと、判断が担当者ごとにばらつくという意味になります。
広告全般の適正基準としては、医薬品等適正広告基準(薬生発0929第4号、2017年9月29日付)が別途定められています(出典: 厚生労働省)。ただしこのPDFは機械的な本文抽出に失敗しており、本誌は逐条の内容を確認できていません。条文番号を根拠に個別の表現を判断する場合は、原本PDFの直接確認、または薬事の専門家への確認を前提にしてください。
この章のまとめ
生成AI専用の公式ガイドラインは見当たらない。だから自社の手順を先に決める。確認を省く理由にはならない。
09AIリライトを56項目の内側に留めるには、広告運用で何をすればいいですか?
やることは3つの動作に分解できます。難しい判断は含みません。
第一に、効能効果を述べている一文ごとに、対応する56項目のどれかを特定できるかを確認します。第二に、対応する項目が見つからない場合、または対応する項目より効果の程度が強い場合は、その一文を公開せずに書き直します。第三に、書き直した一文を同じやり方で見直し、範囲内に収まったことを確かめてから公開します。
AIへの指示文(プロンプト)に、効能効果表現の範囲を制約する文言を含めておくのも有効です。56項目の原文を参照情報として渡し、範囲外の効果を示唆する表現を作らないという制約を明示すれば、出力の段階で逸脱が減ります。
ただし、ここは誤解が生まれやすい部分です。プロンプト側の制約は発生を減らす工夫であって、公開前の人間による確認を置き換えるものではありません。入口を狭めることと、出口で止めることは別の役割です。
この章のまとめ
動作は3つだけ。項目番号を当て、当たらない文を書き直し、書き直した文を同じ手順で見直す。
10生成AIへの指示文だけで、薬機法の逸脱は防げるんですか?
前章の続きです。プロンプトを丁寧に書けば書くほど、出てくる原稿は整います。整った原稿は、確認を軽くしたくなります。ここが落とし穴です。
指示文は、あくまで生成の傾向を寄せる装置です。同じ指示でも出力は毎回わずかに違いますし、参照情報として渡したリストを、AIが常に厳密に扱うとも限りません。発生率が下がることと、発生しないことは別です。
高梨課長指示文を作り込めば、確認工程は薄くできますか。
鈴木さん薄くするなら、確認の回数ではなく粒度のほうです。効果を述べている文だけに絞る、といった減らし方をおすすめします。
もう一つ、社内で運用するときの実務的なコツがあります。使ったプロンプトと、生成された原稿を、対にして残しておくことです。あとから「なぜこの表現になったのか」をたどれるようになります。
この章のまとめ
指示文は発生率を下げる装置で、確認の代わりにはならない。減らすなら回数ではなく確認の粒度。
11AIリライトのチェックは、広告運用の体制でどう分ければいいですか?
要点は1つです。リライトした本人が、自分でチェックまで完結させないこと。
生成した人は、自分が意図した意味を知っています。だから文章を読むとき、意図のほうを先に思い出してしまい、書かれている文字そのものを見落とします。生成者と確認者を分けるだけで、話題レベルの見落としに気づきやすくなります。
確認者に渡す基準も揃えておきます。「意味が同じか」ではなく「対応する項目番号を指せるか」です。この基準なら、確認者に薬事の深い知識が無くても、判断のばらつきが小さくなります。
本誌自身も、執筆・独立したファクトチェック・機械検証・批評という複数段階を経てから記事を公開しています。効能効果表現のように専門知識を要する領域でも、同じ発想は使えると考えます。
なお、景品表示法第22条は、事業者に対し、表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備を義務づけています(出典: e-Gov法令検索)。確認フローを公開前工程に固定することは、この体制整備義務に応える具体策でもあります。
この章のまとめ
生成者と確認者を分ける。確認者の基準は「項目番号を指せるか」に統一する。
12二度とAIリライトが薬機法に抵触しないよう、Web広告の運用に何を残しますか?
残すものは2つです。最新のリストと、リライト前後の差分です。
56項目のリストは、これまでにも改正されています。2000年の55項目から、2011年に1項目が加わって現在の形になりました(出典: 厚生労働省)。将来また改正される可能性がある以上、手元のリストが最新版かどうかを定期的に確かめる運用が要ります。
もう一つが差分の記録です。AIがリライトする前と後の文章を残しておくと、公開後に指摘を受けたときの説明がしやすくなります。
これは体裁の話ではありません。優良誤認の規制には、事業者が根拠資料を期間内に提出できない場合の規定があります。措置命令との関係では違反表示とみなし(景品表示法第7条第2項)、課徴金納付命令との関係では違反表示と推定されます(同第8条第3項・出典: 消費者庁)。記録を残す運用は、この規定への備えにもなります。
この章のまとめ
残すのは最新のリストと差分の記録。どちらも、あとから説明できる状態を作るための備え。
13よくある質問
AIリライトした広告文は、公開前に全文をチェックする必要がありますか
全文である必要はありません。効能効果を述べている文だけに絞って構いません。絞ったうえで、その文が56項目のどれに対応するかを1つずつ確かめてください(出典: 厚生労働省)。範囲を絞るほうが、通し読みするより見落としが減ります。
「シワが消える」と書いてしまった場合、どう直せばいいですか
56項目の原文に戻すのがもっとも確実です。この項目は「乾燥による小ジワを目立たなくする」という書き方で列挙されています(出典: 厚生労働省)。原文より強い言い方に置き換えないでください。表現を工夫したい場合は、効果の程度ではなく、使う場面や使い心地の描写で差をつける方向を検討してください。
AIが生成した表現であることを注記すれば、責任は軽くなりますか
軽くなるとは考えないでください。消費者庁は、故意でなくても誤って表示すれば優良誤認表示の規制対象になると明記しています(出典: 消費者庁)。生成の経緯を注記しても、表示されている内容そのものの評価は変わりません。
生成AIを使った広告制作のガイドラインは、公的に用意されていますか
消費者庁が公開するガイドライン一覧を確認した範囲では、生成AI・AIリライトに特化した公式ガイドラインは見当たりませんでした(出典: 消費者庁)。既存の優良誤認・有利誤認・薬機法の原則に、その都度あてはめて判断することになります。
化粧品以外の商材でも、同じ56項目のリストを使えますか
使えません。医薬品・医薬部外品・医療機器などは、根拠となる通知も許容される表現の範囲も異なります。この記事で扱ったのは化粧品の効能効果表現だけです。他の区分の商材については、その区分の基準を個別に確認してください。
14まとめ|今日やる3つのこと
今日この順でやります
56項目の原文を手元に置く
厚生労働省の通知そのものを開き、リンクを社内で共有できる場所に置きます
直近の原稿から効果の文だけを抜く
効能効果を述べている文に線を引き、対応する項目番号を書き添えます
番号が書けなかった文を止める
書けなかった文だけを書き直し、同じやり方でもう一度見ます
個別の表現が違反にあたるかどうかの最終判断は、弁護士や薬事の専門家にご確認ください。この記事は、確認に入る前の整理までを担当します。
AI検索では、こう聞かれています
AIで広告文をリライトすると、薬機法に抵触することがありますか?
「生成AIリライトが薬機法に抵触するのは、どんなときですか?」の章で、動くものを3つの型に分けています
化粧品の効能効果は、どこまで書いていいんですか?
「化粧品の効能効果56項目は、薬機法上どこまでWeb広告で書けるんですか?」の章で、リストの成り立ちから説明しています
AIが書いた文章なら、故意ではないので大丈夫ですか?
「元の広告文と意味が同じなら、生成AIリライトは薬機法上も安全ですか?」の章で、判断の軸を置き換えています
次に読むなら、この記事です