生成AIで広告文をリライトすると、元の文章には無かった効能効果の表現が紛れ込むことがあります。本誌はこの失敗が実際に自社で起きた記録を持っていません(自社実例の実測台帳.md確認)。以下は、化粧品の効能効果表現を定めた厚生労働省の通知と、景品表示法の一般原則から論理的に導いた、AIリライト特有の失敗パターンです。実際に起きた事故の記録ではなく、法令の要件から構造的に起こりやすいと考えられるパターンとして読んでください。
この記事で分かることは次の3点です。
- 化粧品の効能効果表現が56項目に限定列挙されている法的根拠
- AIによる言い換え(リライト)が、その境界を越えやすい構造的な理由
- 公開前に境界越えを検出する、仕組み化のポイント
扱うのは化粧品の効能効果表現に絞ります。医薬品・医薬部外品・医療機器等、他の対象カテゴリの効能効果表現は、根拠となる通知や許容範囲が異なるため、この記事では扱いません。厚生労働省・消費者庁の公式サイトは2026-08-07に確認しています。
01AIリライトが薬機法の56項目からはみ出すとき、何が起きるか
化粧品の効能効果として表示してよい範囲は、厚生労働省の通知(薬食発0721第1号、2011年7月21日付)で56項目に限定列挙されています(出典: 厚生労働省)。この通知は、2000年(平成12年)の通知で定められた55項目に「乾燥による小ジワを目立たなくする」という表現を追加した改正です(出典: 同上)。つまり56項目に含まれない効果を広告で示すことは、加工の有無を問わず薬機法上の問題になり得ます。
化粧品の効能効果に関する虚偽・誇大な表示は、薬機法第66条が禁止する「虚偽又は誇大な記事」の広告・記述・流布に該当し得ます(出典: e-Gov法令検索)。56項目という限定列挙は、この禁止規定を化粧品の効能効果について具体化した行政通知という位置づけです。
薬機法第66条第1項に違反する誇大広告には、課徴金納付命令の規定もあります(薬機法第75条の5の2)。同条による課徴金の額は対象期間中の対価合計額に4.5%を乗じた額で、算定額が225万円未満の場合は納付命令の対象になりません(出典: e-Gov法令検索)。
AIによる言い換えは、意味を保ったまま別の言葉に置き換えることを目的とした技術です。効能効果の範囲が「限定列挙」という一字一句の枠で決まっている法律と、意味の同一性を優先して言葉を変えるAIリライトの相性は、構造的によくありません。次の表は、実在する56項目の表現と、AIリライトが生成しやすい逸脱パターンを並べたものです。逸脱パターンの列は、本誌が実際に検出した事例ではなく、法令の構造から導いた仮想例です。
| 56項目にある表現(原文の例・出典: 厚生労働省) | AIリライトが生成しやすい逸脱パターン(仮想例) | 何が変わったか |
|---|---|---|
| 乾燥による小ジワを目立たなくする(56番目の項目) | シワが消える/シワが解消される | 「目立たなくする」から「消える」へ、効果の程度が強まる |
| 頭皮、毛髪を清浄にする(1番目の項目) | 頭皮トラブルを治す | 美容行為の表現から、治療を示唆する表現に変わる |
| 香りにより毛髪、頭皮の不快臭を抑える(2番目の項目) | ニオイの原因菌を撃退する | 対象範囲を超えて、殺菌効果を示唆する表現に変わる |
表が示すのは、AIリライトが「対象」を保ったまま「程度」を強める癖です。「目立たなくする」を「消える」に、「清浄にする」を「治す」に置き換えても、AIの目には同じ話題を扱った自然な言い換えに見えます。しかし薬機法が問題にするのは話題ではなく、効果の程度と種類そのものです。
02「AIリライトは故意ではない」という誤診
AIが生成した表現に効能効果の逸脱を見つけたとき、最初に出やすい判断は「AIが自動で書いたのだから、故意に誇大表示をしたわけではない」というものです。この判断は、景品表示法の規制構造と整合しません。効能効果のような品質・内容の誇張は優良誤認表示(景品表示法第5条第1号)にあたり、消費者庁は故意でなくても誤って表示すれば規制対象になると明記しています(出典: 消費者庁)。AIリライトが自動生成した表現であることは、規制の適用そのものを免れる理由にはなりません。
価格や取引条件の誤認を規制する有利誤認(景品表示法第5条第2号)は、効能効果そのものの表現には通常当てはまりません(出典: 消費者庁)。
もう一つの誤診は「元の文章が問題なかったのだから、リライト後も同じ意味なので安全」という判断です。しかし前段の表が示すとおり、AIリライトは対象を保ったまま程度を強める傾向があります。同じ話題を指しているように見えても、規制が見るのは表現の程度と種類であり、話題の同一性ではありません。「意味は同じ」という判断そのものが、効能効果表現の限定列挙という制度の性質を見落としています。
03AIリライトのどこに真因があるか
真因は、AIリライトという技術の性質と、効能効果表現という制度の性質が、根本的に噛み合っていない点にあります。AIリライトは自然で説得力のある言い換えを生成するように設計されており、表現の強度を上げる方向に最適化されやすい技術です。一方、化粧品の効能効果表現は56項目という閉じたリストで定められており、リスト外の表現は理由を問わず対象外になります(出典: 厚生労働省)。この2つの性質が重なると、話題レベルで「同じことを言っている」と確認しただけの表現が、実は規制の境界を越えている、という見落としが構造的に起きやすくなります。
もう一つの真因は、確認基準そのものが用意されていないことです。消費者庁が公開するガイドライン一覧を確認した範囲では、生成AI・AIリライトに特化した公式ガイドラインは存在しません(出典: 消費者庁)。つまり「AIが書いた文章はこう確認する」という専用の手順は公式には無く、既存の優良誤認・有利誤認・薬機法の原則に、都度当てはめて判断する必要があります。専用の確認基準が無いことは、確認作業そのものを省略してよい理由にはなりません。
04AIリライトを56項目の枠内に留める恒久対策
恒久対策は、AIリライトの出力を話題レベルで読むのではなく、56項目の原文と逐語で突合する仕組みを公開フローに組み込むことです。具体的な手順は次の3ステップです。
- 効能効果を示す一文ごとに、対応する56項目のどれかを特定できるかを確認する
- 対応する項目が見つからない場合、または対応する項目より効果の程度が強い場合は、その一文を公開せず書き直す
- 書き直した一文を1・2の手順で再確認し、56項目の範囲内に収まったことを確かめてから公開する
AIへのリライト指示(プロンプト)そのものに、効能効果表現の範囲を制約する文言を含めることも有効な対策です。56項目の原文をプロンプトの参照情報として渡し、範囲外の効果を示唆する表現を生成しないという制約を明示すれば、AI側の出力段階で逸脱の発生率を下げられます。ただしプロンプト側の制約だけでは、公開前の人間確認を省略できません。
本誌自身も、執筆・独立ファクトチェック・機械検証・批評という複数段階を経てから記事を公開する仕組みを採用しています。効能効果表現のように専門知識を要する領域でも、同様に複数段階の確認を組む発想が有効だと考えます。
景品表示法第22条は、事業者に表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備を義務づけています(出典: e-Gov法令検索)。AIリライトの確認フローを公開前工程に固定するのは、この体制整備義務に応える具体策でもあります。
もう一つのポイントは、リライトした本人が自分でチェックを完結させないことです。AIリライトの生成者と、56項目との突合を行う確認者を分けるだけで、話題レベルでの見落としに気づきやすくなります。確認者は「意味が同じか」ではなく「対応する項目番号を指せるか」を基準に見ることをおすすめします。
広告全般の適正基準としては、医薬品等適正広告基準(薬生発0929第4号、2017年9月29日付)が別途定められています(出典: 厚生労働省)。このPDFは機械的な本文抽出に失敗しており、本誌は逐条の内容を確認できていません。条文番号を根拠に個別の表現を判断する場合は、原本PDFの直接確認、または薬事の専門家への確認を必須にしてください。
05二度とAIリライトで枠を超えないための仕組み
再発防止の要は、確認を一度きりで終わらせず、仕組みとして繰り返すことです。56項目のリストは過去に改正されており、2000年の55項目から2011年に1項目が追加されて現在の56項目になりました(出典: 厚生労働省)。リストが将来また改正される可能性がある以上、参照するリストが最新版かどうかを定期的に確認する運用が必要です。
AIがリライトした前後の文章を差分として記録に残しておくと、公開後に指摘を受けた場合の対応もしやすくなります。優良誤認の規制にも、事業者が根拠資料を期間内に提出できない場合の規定があります。措置命令との関係では違反表示とみなし(景品表示法第7条第2項)、課徴金納付命令との関係では違反表示と推定されます(同第8条第3項・出典: 消費者庁)。記録を残す運用は、この規定への備えにもなります。
06同じ失敗を避けるためのAIリライトチェックリスト
- AIがリライトした効能効果表現を、56項目の原文と1行ずつ突合したか確認した
- リライト前後で表現の程度が強まっていないか確認した(「目立たなくする」→「消える」等)
- 「AIが生成したのだから故意ではない」という理由だけで公開を進めていないか確認した
- 対応する項目が見つからない新しい言い回しを、確認しないまま採用していないか確認した
- AIへのリライト指示に、効能効果表現の範囲を制約する文言を含めているか確認した
- 「医薬品等適正広告基準」の逐条確認が必要な表現は、原本または専門家に確認した
- 公開前に薬事・景品表示法の専門家へ確認できる体制があるか確認した
- AIリライトの前後の文章を、差分として記録しているか確認した
薬機法・景品表示法・ステマ規制の全体像は『広告表現の法規制まとめ|薬機法・景表法・ステマ規制の境界』で整理しています。AI量産と品質管理の関係は『AI量産記事とスパムポリシー違反|見るべきは本数でなく価値』も参考にしてください。個別の表現が違反に当たるかどうかの最終判断は、弁護士や薬事の専門家にご確認ください。